「これは〇〇くんのだよ」「順番守ろうね」と伝えるたびに、返ってくるのは「うるさい」のひと言。注意すると怒る、何度言っても聞かない。そんな毎日に、すっかり参ってしまっている親御さんは少なくありません。
今回は、僕が2年ほどサポートさせてもらっている小学1年生の男の子のご家庭が、約4か月かけて少しずつ変わっていった実際のお話をもとに、注意のかわりに試せる伝え方をまとめました。
うまくいかなかった方法も、ぶつかった壁も、そのままお伝えします。あくまで1つのご家庭のお話ですが、お子さんに合いそうなところがあれば、気軽に取り入れてみてください。
この記事でわかること
- 注意すると怒る子に、直接の注意が届きにくくなる理由
- 「ほかの人のお話」として伝える3つの方法と、伝えるタイミング
- お話でも届かなかったご家庭で変化につながった「相談する」伝え方
- 相談がマンネリになったときの工夫と、否定的な答えが返ってきたときの受け止め方
もくじ
注意すると怒る・「うるさい」と返すのはなぜ?
このご家庭の親御さんから最初にいただいたのは、「周りの人の気持ちを考えて行動できるようになるのって、何歳くらいからなんですかね?」というご相談でした。
くわしくお話を聞いていくと、悩まれていたのは次のようなことでした。
- お友達のおもちゃや物を取ってしまう
- やりたい気持ちが強くなると、お友達に順番を譲れない
- 自分が使っている物を貸してあげられない
そのたびに「これは〇〇くんのだよ」「順番守ろうね」と伝えるのですが、返ってくるのは「うるさい」などのしんどいひと言ばかり。毎日のようにこれが続くと、親のほうも心が削られていきますよね。
「こうしなさい」と直接言われると、大人でもつい反発したくなることがあります。子どもも同じで、困った行動をしている最中に正面から注意されると、内容より「怒られた」「責められた」という気持ちが先に立ってしまい、素直に受け取りにくくなることがあります。
それに、僕が教育者として強く感じていることがあります。それは、子どもたちはそれぞれ「本当はこうしたほうがいい」という考えを、ちゃんと持っているということです。ただ、それがいろいろな状況のなかで、まっすぐ出にくくなっているだけなんです。
だからこそ、注意の言葉を強くしたり回数を増やしたりするより、子どもが自分の中にある考えを出しやすい伝え方を探してみる。このご家庭の4か月は、まさにその試行錯誤でした。
TERU注意すること自体が悪いわけではありません。危ないときや、相手を傷つけてしまうときは、その場で止めることが必要です。
今回お話しするのは、それとは別に、普段の関わりのなかで「伝わる形」を増やしていく方法です。
叱り方そのものについては、伝わりやすい叱り方と、叱りすぎた後のフォローをまとめた記事もあります。あわせて読んでみてください。
注意のかわりに「ほかの人のお話」として伝える
このご家庭の親御さんはとても勉強熱心な方で、子育ての本をたくさん読まれていました。そのなかで出会ったのが、「子どもに何かを伝えるときは、直接注意するのではなく、ほかの人のエピソードとして伝えるとよい」という考え方です。見つけたときは「これだ!」とビビッときたそうです。
先にお伝えしておくと、このご家庭ではこの方法だけではうまくいかず、そのあとに試した方法が変化につながりました。ただ、「ほかの人のお話として伝える」という考え方は、心理学の研究とも重なるところがあります。
研究でわかっていること
アメリカの心理学者グリーン博士とブロック博士は、物語に引き込まれて夢中になる状態を「物語的輸送」と呼び、それを測る尺度をつくって、大学生を対象に4つの実験を行いました。
物語に強く引き込まれた人ほど、読んだあとの考え方が物語の内容に近づき、物語の中の「おかしいな」と感じる点にも気づきにくくなっていました。物語に入り込んでいると、そのメッセージを疑う気持ちが弱まる可能性を示した研究です。
大学生を対象にした研究なので、幼児にそのまま当てはまるとは言えませんが、ざっくり言うと「こうしなさい」と言われると反発しやすいけれど、お話として聞くと受け取りやすくなることがある、という考え方です。
また、アメリカの教育者キャロル・グレイさんが、もともと自閉スペクトラム症の子どもたちのために考えた「ソーシャルストーリー」という方法も、ある場面で何が起きているのか、周りの人がどう考えているのかなどを、短いお話の形で正確に伝えるものです。
お話として伝える3つの方法
具体的なやり方は、大きく分けて3つあります。
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方法1親自身の体験として話す
「お父さんが小さいころの話なんだけどね、お友達のおもちゃを取っちゃって、すごく後悔したことがあったんだ。でも、次から『貸して』って言うようにしたら、一緒に遊べてうれしかったんだよ」のように、お子さんの困りごとに関係する親の体験を話してあげる方法です。
昔の話でなくてもかまいません。「昨日、職場でこんなことがあってね」と、最近の出来事から順番を守ることや、物を譲ることの大切さを感じてもらうのもひとつです。本当にあった話がいちばんですが、少しデフォルメした作り話でも問題ないと僕は思っています。
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方法2ほかの人から聞いた話として伝える
「職場の人からこんな話を聞いたんだけどね」と、身近な誰かの体験として伝える方法です。そのお話が、実はお子さんの今の困りごととつながっていて、聞いているうちに気づきが生まれる、という形です。
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方法3絵本で知る
しつけやマナー、心を育むことを題材にした絵本を読んであげるのも、この考え方のひとつです。幼児さんなら、たとえば『おやくそくえほん はじめての「よのなかルールブック」』(高濱正伸 監修・日本図書センター)や、『よくできました! こどもルールブック』(齋藤孝 監修・日本図書センター)のような、身のまわりのルールを子ども向けにまとめた本があります。
お話をするのは「何も起きていない普通のとき」
ほかの人のお話として伝えるときに、とても大事なことが1つあります。それはお話を伝えるタイミングです。
考えてみればそれはそうだと思うのですが、お子さんが反抗的な態度をとっているときや、困った行動をした直後に、急にお話を始めると、子どもは嫌がることが多いです。ほかの人のお話でも、「これ、自分に言われてる」とひしひしと感じますから、受け取れなくて当たり前です。
なので、こういったお話は、お互いの関係がいい「普通のとき」に伝えるのがおすすめです。食事中でもいいですし、ゆっくりおしゃべりしているときでもかまいません。何も問題が起きていないときのほうが、素直に話を聞いてくれやすくなります。

注意がなかなか届かない子のなかには、そもそも人の話を最後まで聞くこと自体が苦手な子もいます。そんなときは、人の話を聞けない子どもへの関わり方と、聞く心と聞く力の育て方をまとめた記事も参考にしてみてください。
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届かないときは、子どもに「相談する」
さて、ここまで長々とお話ししてきましたが、このご家庭では、ほかの人のお話として伝える方法は、正直あまりうまくいきませんでした。
お話をしても、お子さんにとってはあくまでほかの人の話なので、自分のこととして受け取れなかったんです。「ふーん」で終わってしまったり、そもそも興味を持って聞いてくれなかったり。親としては「この話を聞けば、何か気づいてくれるかも」と期待して話しているのに、子どもは「で?」という感じだったそうです。
せっかく本で調べて工夫したのに、これは落ち込みますよね。
「お話を聞かせる」から「相談する」へ
そんなとき、たまたまこの親御さんとお話しする機会があり、この件を相談してもらいました。ここまでの取り組みを伺ったうえで、どうしたらお子さんにとってよりよい伝え方になるかを一緒に考え、僕が出したアイデアがこちらです。
エピソードを伝えるのではなく、子どもに相談する形で伝える
これまでの取り組みとまったく別の方法というより、もう一歩深い実践に踏み込んでみる、というイメージです。お話を一方的に聞かせるのではなく、お子さんを頼って「どうしたらいいと思う?」と相談します。
たとえば、こんなふうに伝えます。
大人知り合いのおうちに、小学生の男の子がいるんだけどね。その子が、お友達と遊んでいて楽しくなっちゃうと、「僕が先に遊びたい!」って思って、順番を守れなくなっちゃうことがあるんだって。どうやったら、その子は順番を守れるようになると思う? その子のおうちの人も、すごく悩んでるみたいなんだよね。
相談されると、子どもには「アドバイスをする」という役割が生まれます。自分で考えて、自分の言葉で答える。このお子さんにとっては、これがとくに大事だと思いました。
このお子さんは自分の意思がとても強い一方で、ときどき強い正義感のようなものを見せることもありました。だからこそ、自分で言ったことなら、次に自分が同じ状況になったときに、行動に表れやすくなるのではと考えて、提案してみました。
研究でわかっていること
アメリカの社会心理学者アロンソン博士は、「こう考えなさい」と直接説得するのではなく、本人が自分で自分を説得したくなる状況をつくる考え方を、「自己説得」として研究してきました。
1999年の論文では、コンドームの使用や節水、偏見を減らす取り組みなどについての自身の研究をまとめ、自己説得が考え方や行動の長く続く変化につながりうることを論じています。
家庭での子どもへの声かけを直接調べた研究ではありませんが、人に言われたことより、自分で理由を考えて口にしたことのほうが、そのとおりに動きやすくなる、という考え方です。
TERU相談という形は、子どもの中にある考えを外に出してもらう、ちょうどいいきっかけになると僕は感じています。
子どもの答えは、意外としっかりしている
このアイデアをお伝えしたとき、親御さんは「なるほど」と思いつつも、「うちの子にそれできるかな…」という不安もあったそうです。まだ小学1年生ですから、相談に乗れるかどうかわからないと思うのは当然ですよね。
でも、実際にやってみると、「意外とまともなことを言えるんだな」と気づいたそうです。「子ども扱いしすぎていたかもしれない」と、親御さん自身の気づきにもなったとおっしゃっていました。
実際に返ってきた答え
たとえば、なかなか順番を守って並べない子の相談をしてみたとき、お子さんは「そんなの当たり前じゃん。ちゃんと並ばないとダメだよ」と言い切ったそうです。
親御さんは思わず笑ってしまって、「どの口が言ってるの!」とツッコみそうになったものの、我に返って「でも、ちゃんとわかってはいるんだな」と感じたとのことでした。
また、お友達が使っている物を自分も使いたくなって取ってしまうことが多かったので、それにつながる相談として、「自分が使っている物をお友達に貸してあげられない子がいてね」と話してみたときは、「僕も貸したくないって思うからなあ」と、むしろ共感するようなことを言ったんです。
そのうえで、「どうして貸したくないのか、聞いてあげたらどうかな?」と答えたそうです。貸してあげられないのには事情があるから、それをちゃんと聞いてあげることが大事なんじゃないか、という考えでした。子どもはやっぱり、自分の中に「こうしたほうがいい」という考えを持っているんだなと、改めて感じたお話です。
否定的な答えが返ってきたときは
もちろん、いつもこんなふうに答えてくれるとは限りません。「えー、別に順番守らなくていいんじゃない?」のような答えが返ってくることもあると思います。
子どもえー、別に順番守らなくていいんじゃない?
大人なるほど、そう思うときもあるよね。でも、順番を抜かされちゃった子が悲しんでたら、どうかな?
そんなときは、まずいったん受け止めてから、できそうなら相手の気持ちを想像できるように少しだけ深掘りしてみる。これが理想かなと思います。
ただ、こういう返しは実際にはなかなか難しいものです。うまく続けられなかったとしても、相談してみただけでも十分だと僕は思っています。
マンネリになったら、相談の「主語」を変える
ここからすべてが順調だったわけではなく、このご家庭にも壁がありました。それが、相談のパターンがマンネリになってきたことです。
この親御さんの場合、相談の切り口が「知り合いから、その人の子どもの相談を受けた」という形ばかりでした。何度もやっているうちに、だんだん不自然さが出てきてしまったんです。毎回「知り合いからね…」というのも、さすがに無理がありますよね。
そこでもう一度相談をもらい、一緒に考えたのが「相談の主語を変えて、バリエーションを増やす」ということでした。
- テレビや動画で見た話「この前テレビで見た話なんだけどさ」
- 本に出てきた話「本に出てきた子がね、こんなことで困ってたんだけど」
- 親自身の職場の話「職場の後輩が、こんなことで悩んでてね」
- きょうだいのこと「最近、下の子がこうなんだけど、どうしたらいいと思う?」
主語を変えるだけで、相談のバリエーションはかなり広がります。
このご家庭に合っていたのは「きょうだいの相談」
このご家庭には、下のきょうだいがいました。そして、上の子の困った行動と同じようなことが、下の子にも見られることがあったんです。
そこで、下の子の行動について「最近こうなんだけど、どうしたらいいと思う?」と上の子に相談してみたところ、これがこのご家庭にとても合っていました。
下の子のことを相談されることで、お兄ちゃんとしての自覚というか、「おうちの人に頼りにされている」「自分の意見が下の子のためになるかもしれない」と感じたのか、相談にとても真剣に答えるようになったそうです。
そして、下の子のためにこうしたほうがいいと自分で考えて口にしたことが、結果として自分自身への責任感にもなって、自分の行動も変わっていったのかなと思います。

きょうだいの相談をするときに
相談の目的は、上の子に考えてもらうことです。「お兄ちゃんなんだから、ちゃんと見本を見せてね」と役割を押しつけたり、下の子と比べたりする言い方にならないように気をつけてみてください。上の子が下の子に手が出てしまうなど、別の悩みがあるときは、上の子が下の子を叩くときの、原因別の関わり方をまとめた記事も参考になると思います。
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公式LINEを友だち追加する4か月で変わったこと
こうして、ご相談をいただいてから約4か月、相談する伝え方を続けてもらいました。毎日欠かさず、というわけではありません。忙しくて忘れてしまうことも多々ありましたが、無理のない範囲で、とお伝えしながら取り組んでもらいました。
4か月たって、とくに「物を譲れない」ところは、だいぶやわらいできたそうです。
いきなりお友達の物を取ってしまうことは、ほとんどなくなりました。お友達に「貸して」と言われたら、ちょっと嫌そうではあるものの、「まあ、しょうがないか」という感じで貸してあげる場面がぐっと増えたそうです。
ときどき、どうしても気持ちが高ぶって「嫌だ!」となってしまうこともあるそうですが、その回数はすごく減ったとおっしゃっていました。
ただ、親御さんの悩みがすべてなくなったわけではありません。1つよくなると、今度は別のことが気になってくる。そのくり返しに、「子育てって大変ですね」としみじみおっしゃっていました。本当にそのとおりですよね。
あくまで1つのご家庭のお話なので、同じようにやっても同じ結果になるとは限りません。それでも、注意を重ねても届かないと感じているときに、「伝え方の形を変えてみる」という選択肢があることは、少し気持ちを楽にしてくれるかもしれません。
叱るタイミングについても知っておきたい方は、子どもに伝わりやすいしつけのタイミングをまとめた記事も読んでみてください。
TERU毎回うまく相談できなくても、忘れてしまう日があっても大丈夫です。
できる限り、できる範囲で。それで十分だと僕は思っています。
まとめ
今日のポイント
- 子どもは「本当はこうしたほうがいい」という考えを持っていると僕は感じている。直接の注意では、それが出にくいことがある
- 注意のかわりに、親の体験・ほかの人から聞いた話・絵本など「お話」として伝える方法がある
- お話をするのは、困った行動の直後ではなく、何も起きていない「普通のとき」
- お話でも届かないときは、「どうしたらいいと思う?」と子どもに相談する形に
- マンネリになったら相談の主語を変える。このご家庭では、きょうだいの相談がとくに合っていた
よくある質問
何歳くらいから相談する伝え方ができる?
今回のお話は小学1年生の男の子のご家庭ですが、親御さんも最初は「うちの子にできるかな」と不安に思っていました。実際にやってみると、思っていた以上にしっかりした答えが返ってきたそうです。年齢よりも、お子さんが落ち着いて話せる「普通のとき」に、短く、答えやすい形で聞いてみることを大切にしてみてください。
作り話をして子どもをだますことにならない?
本当にあった話がいちばんですが、少しデフォルメした作り話でも問題ないと僕は思っています。親自身の体験や、テレビや本で見た話、きょうだいのことなど、本当の話でも相談の主語はいろいろ選べます。
相談しても「知らない」と言われたら?
無理に答えを引き出そうとしなくて大丈夫です。「そっか、難しいよね」と受け止めて、その日は終わりにしてかまいません。否定的な答えが返ってきたときも、まず「そう思うときもあるよね」と受け止めるのが土台です。主語を変えたり、日をあらためたりしながら、気軽に続けてみてください。
その場で注意するのはやめたほうがいい?
危ないときや、お友達を傷つけてしまうときは、その場で止めることが必要です。相談する伝え方は、その場の注意のかわりというより、普段の落ち着いたときに、子どもが自分の考えを言葉にする機会を増やす方法です。両方を組み合わせながら、お子さんに合う形を探してみてください。

この記事を書いた人TERU幼児教育講師/子育て勉強会TERU 代表
幼児教室で、たくさんの親子と関わってきた幼児教育講師。YouTube「子育て勉強会TERUch」(登録者 約13万人)で、子どもの発達や関わり方を研究の知見とあわせて発信しています。Yahoo!ニュース エキスパートとしても活動中。3〜8歳向けの「TERU先生の動画教室」や、オリジナルのひらがな・カタカナ教材も手がけています。
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参考文献
- Green, M. C., & Brock, T. C. (2000). The role of transportation in the persuasiveness of public narratives. Journal of Personality and Social Psychology, 79(5), 701–721. DOI
- Aronson, E. (1999). The power of self-persuasion. American Psychologist, 54(11), 875–884. DOI
- Gray, C. Social Stories(キャロル・グレイ公式サイト). 公式サイト
※この記事は一般的な子育て情報としてまとめたものです。お子さんの心や体の状態で心配なことがあるときは、医師や専門機関にご相談ください。



