声をかければかけるほど、自分でできることが増えていく子と、声をかければかけるほど、わがままが強くなったり、言われないと動けなくなったりする子。僕はこれまでたくさんのご家庭のサポートをさせてもらってきましたが、この2つの違いはどこから来るんだろう、と考える機会がありました。
結論を聞くと「そりゃそうだよね」と思う内容かもしれません。それでも僕のなかでは、これほど本質的な声かけの違いはないと感じているので、ぜひ一緒に考えてもらえたらうれしいです。
この記事でわかること
- わがままになりやすい「取引型」の声かけとは何か
- 自立につながりやすい「世界の仕組み確認型」の声かけとは何か
- 歯磨き・片付け・朝の支度など、シーン別の言いかえ例
- 声かけだけでは動けない子に試したい、もうひと工夫
もくじ
結論:違いは「声かけの型」にある
先に結論からお伝えします。
子どもがわがままになっていきやすいご家庭は、「取引型」の声かけが多い。一方で、子どもが自立していきやすいご家庭は、「世界の仕組み確認型」の声かけが多い。これが、僕がたどり着いた1つの答えです。
これだけだとわかりづらいと思うので、ここから1つずつ説明していきます。
わがままになりやすい「取引型」の声かけ
取引型の声かけは、親がご褒美や罰を条件にして、子どもを動かそうとする声かけのことです。たとえば、こんな声かけです。
- 「歯磨きしたら、お菓子あげるよ」
- 「お片付けしたら、動画見ていいよ」
- 「宿題やらないと、夜のデザートなしだからね」
- 「習い事頑張ったら、おもちゃ買ってあげる」
こういう声かけがあまりよくないことは、皆さん、もうわかっていると思います。わかってはいるけど、つい使ってしまう。それが取引型の声かけですよね。
「やったらあげる」「やらないと取り上げる」
取引型の声かけは、よく見ると、とてもシンプルな仕組みでできています。「〇〇したら〇〇をあげる」「〇〇しなかったら〇〇はなし」。この2つの形です。
そして大事なのが、取引型の声かけは、本来その行動とは関係のないものを、あとから結びつけているという点です。「歯磨き」と「お菓子」は、もともとつながっているものではありません。「お片付け」と「動画」もそうです。関係のないものをご褒美や罰としてくっつけて、子どもを動かそうとしているわけです。
ご褒美を何にするか、取り上げるかどうかを決めるのは親です。子どもから見ると、親の機嫌や判断しだいで、もらえるものが変わる状態になります。その結果、親子の間に「信頼関係」ではなく「取引関係」ができてしまうことがあります。
取引型を続けると起きやすいこと
- 「〇〇くれたら、やるよ」と条件を交渉してくるようになり、わがままがエスカレートしやすい
- ご褒美がないと動けなくなっていきやすい
- 「歯磨きは虫歯を防ぐため」のような、行動の本来の理由がわからないまま育ちやすい
どれも、子育て中なら心当たりがあるかもしれません。こんなふうに淡々と説明しましたが、正直、僕自身も思い当たることがありすぎて心が痛いです。笑
研究でわかっていること
アメリカのデシ博士らは、ご褒美が「やりたい気持ち(内発的動機づけ)」にどう影響するかを調べた128の実験をまとめて分析しました。
その結果、前もって約束された物のご褒美は、ご褒美がなくなったあとに自分から取り組む気持ちを下げていました(パズルやお絵かきなど、もともと楽しんでいる活動での結果です)。この影響は、大学生より子どものほうが大きい傾向がありました。一方で、「自分でここまでできたね」のような言葉でのポジティブなフィードバックは、やりたい気持ちを下げることはなく、大学生では自分から取り組む気持ちを高めていました(子どもでは、自分から取り組む時間を増やすほどのはっきりした効果は見られませんでした)。
「内発的動機づけ」は、むずかしく聞こえますが、ご褒美のためではなく、それ自体がおもしろい、楽しいからやる気持ちのことです。とくに、ピアノやお絵かきのように子どもがもともと楽しんでいることに、ご褒美を前もって約束する取引型の声かけを続けると、この気持ちが育ちにくくなることがある、というわけです。
自立につながりやすい「世界の仕組み確認型」の声かけ
では、世界の仕組み確認型の声かけとは何か。これは、その行動をすると世界のなかでどんなことが起きるのかを、子どもと一緒に確認する声かけのことです。
- 「歯磨きしないと、寝ている間にばい菌が増えて、虫歯になりやすくなるよ」
- 「お片付けしておくと、次に使うとき、どこに行ったか探さなくて済むね」
- 「ごはんを食べないと、お腹がすいて夜に眠りにくくなるかもしれないね」
- 「ピアノの練習、今は大変かもしれないけど、弾けるようになったらきっと楽しくなってくるよ」
こんな話をすると、「はいはい、そういう声かけね。うちの子はそんな声かけじゃ1ミリも動かないんだけど…」という声が聞こえてきそうです。笑
それは本当にそのとおりです。この声かけで子どもが思いどおりに動いてくれたら、誰も苦労しません。ただ、今回お話ししたいのは、目の前の子どもを動かすテクニックではなく、長い目で見た子どもの自立の話です。世界の仕組み確認型の声かけは、今すぐ子どもが動く声かけではありませんが、自立に向けた大事な積み重ねになっていくと僕は考えています。
もともとあるつながりを見せる
世界の仕組み確認型の声かけは、「この行動をすると、こうなる」「この行動をしないと、こうなる」という、世界のなかで実際に起きる自然な流れを伝えているだけのシンプルな形です。
「歯磨き」と「虫歯にならないこと」は、もともとつながっています。「お片付け」と「次に物を探しやすいこと」もそうです。あとからくっつけたものではなく、世界にもともとある仕組みをそのまま見せている。ここが取引型との決定的な違いです。
世界の仕組み確認型のいいところ
- 行動の本当の意味を学んでいける1つ1つの行動に、どんな意味と理由があるのかを知っていくことができます
- 誰かの機嫌に左右されない「虫歯は痛い」という仕組みは、親の機嫌や気分で変わりません。この変わらない原則が腑に落ちていくことが、自立の土台になっていくと思っています
- 親子の間で取引交渉が起きにくい「虫歯にならないために歯磨きをする」という理由は、交渉できるものではありません。子どもも「もっと条件をよくして」とは言いにくいですよね
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公式LINEを友だち追加するシーン別声かけの言いかえ例
毎日のよくある場面で、取引型の声かけを世界の仕組み確認型に言いかえると、どうなるかをまとめてみました。全部を覚える必要はありません。使えそうなものを1つ選んで、口ぐせにしてみるくらいで十分です(「確認型」は、世界の仕組み確認型のことです)。
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シーン1歯磨き
取引型歯磨きしないと、明日のおやつなしだからね
確認型歯磨きをしないで虫歯になったら、ごはんのときに歯が痛くて、おいしく食べられなくなっちゃうよ
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シーン2お片付け
取引型片付けないと、おもちゃ捨てちゃうからね
確認型床に散らばっていると、踏んで足が痛くなったり、おもちゃが壊れたりしちゃうよ
「カードを片付けないと、弟にまた折られちゃうかもよ?」のように、その子の毎日に合わせた具体的な言い方にすると伝わりやすくなります。
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シーン3朝の支度
取引型早くしないと、今日の動画の時間なしだよ
確認型早く着替えると、出発までにブロックで遊べる時間が10分できるよ
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シーン4お風呂
取引型お風呂に入らないなら、今日は絵本を読んであげないよ
確認型先にお風呂に入れば、お風呂上がりに絵本をゆっくり読む時間ができるね
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シーン5公園から帰る
取引型そんなに言うことを聞かないなら、明日は公園なしだからね
確認型暗くなってから帰ると、車から見えにくくなって危ないよ
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シーン6習い事の練習
取引型練習しないなら、もう習い事やめさせるよ
確認型練習しておくと、発表会で自信を持ってできると思うよ
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シーン7手洗い
取引型手を洗ったら動画見ていいから、早く洗ってきて
確認型手を洗わないと、ばい菌がお口から入って、お腹が痛くなったり風邪をひいたりすることがあるよ
シーン3・4の「時間ができる」という言い方も、親が決めるご褒美や罰ではなく、時計の上で自然に起きる結果を伝えているところがポイントです。
どの言いかえも、子どもを脅すためではなく、「世界はこうなっているんだよ」と一緒に確かめるための言葉です。怖がらせすぎず、淡々と伝えるくらいがちょうどいいと僕は感じています。
取引型をゼロにしなくて大丈夫
これは僕個人の考え方ですが、取引型の声かけを完全にゼロにするのはむずかしいと思っています。とっさに出てしまうんですよね。
出かける時間が迫っているときなど、取引型の声かけで今すぐ動いてもらわないといけない場面も、正直あります。本当はよくないとわかっていても、毎日それを全部こらえるのは、なかなか大変だと思います。
TERUなので、取引型の声かけを少しずつ減らして、世界の仕組み確認型の声かけを少しずつ増やしていく。そのくらいの意識でいいのかなと思っています。
できる限り、できる範囲で。僕も毎日、自戒しながらやっています。
声かけで子どもが自分から動けるようになるヒントは、癇癪が減り、責任感が育つ親の声かけの記事でも紹介しています。
どうしても動けない子には「結果を見せる」
世界の仕組み確認型の声かけでもなかなか動けない子には、その行動でどんなことが起きるのかを、実際に見せてあげるのも1つの手です。僕も子どもたちとよくやっています。
- 歯をしっかり磨かないとどうなるのかを、歯の健康について子ども向けに説明している本や動画で一緒に見る
- プロのピアニストのインタビューや、練習の様子がわかる動画を一緒に見る
続けたら、あるいはやらなかったらどうなるのか。それがイメージできて腑に落ちることは、とても大事だと感じています。
「結果を見せる」ときに気をつけたいこと
- 小さい子や怖がりな子、不安が強い子には、刺激の強い画像や動画は避けて、子ども向けの絵本や説明を選んでください
- 歯磨きや手洗い、道路や車のことなど、健康や安全にかかわることは実際に体験させずに、本や動画、話で伝えるようにしてください
第三者から伝えてもらうのも手
場合によっては、親以外の人から伝えてもらうのも効果的なことがあります。たとえば、虫歯になるとどうなるかを歯医者さんに、弾けるようになった楽しさや上手になるまでの練習のことをピアノの先生に話してもらう、といった形です。
親が何度言っても届かなかったことが、ほかの大人からの一言ですっと入ることは結構あります。親としては少し複雑ですが、それでいいんだと思います。
まとめ
今日のポイント
- 子どもがわがままになりやすいご家庭は「取引型」、子どもが自立しやすいご家庭は「世界の仕組み確認型」の声かけが多いと僕は感じている
- 取引型は、本来関係のないご褒美や罰を、あとから行動に結びつける声かけ
- 世界の仕組み確認型は、行動ともともとつながっている結果を、一緒に確認する声かけ
- 今すぐ動かす声かけではなく、長い目で自立の土台を育てる声かけ
- 取引型はゼロにしなくて大丈夫。少しずつ言いかえを増やしていけばいい
よくある質問
ご褒美は、全部やめたほうがいい?
全部やめる必要はないと僕は考えています。気をつけたいのは、「〇〇したら〇〇をあげる」と前もって約束する物のご褒美を、毎回のように使うことです。できたことに気づいて「自分で準備できたね」と言葉で伝えるのは、取引型ではありません。この記事で紹介した研究でも、言葉でのポジティブなフィードバックは、物のご褒美とちがって、やりたい気持ちを下げてはいませんでした。
何歳くらいから伝わるもの?
言葉で会話ができるようになったころから、少しずつ使っていけます。小さい子ほど、「虫歯になると痛い」「暗いと車から見えにくい」のように、短くて目に浮かびやすい言い方にするのがおすすめです。すぐに伝わらなくても、くり返し聞くうちに、世界の仕組みとして少しずつ積み重なっていくと僕は考えています。
確認型で言っても、まったく動かないときは?
動かないこと自体は、まったく珍しくありません。この声かけは、その場で動かすためのものではないからです。急ぐ場面では、手伝ったり、一緒にやったりして乗り切ってしまって大丈夫です。そのうえで、落ち着いているときに「どうして歯磨きするんだっけ?」と一緒に考えたり、「どうしても動けない子には『結果を見せる』」で紹介した方法を試したりしてみてください。

この記事を書いた人TERU幼児教育講師/子育て勉強会TERU 代表
幼児教室で、たくさんの親子と関わってきた幼児教育講師。YouTube「子育て勉強会TERUch」(登録者 約13万人)で、子どもの発達や関わり方を研究の知見とあわせて発信しています。Yahoo!ニュース エキスパートとしても活動中。3〜8歳向けの「TERU先生の動画教室」や、オリジナルのひらがな・カタカナ教材も手がけています。
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参考文献
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668. PubMed
※この記事は一般的な子育て情報としてまとめたものです。お子さんの心や体の状態で心配なことがあるときは、医師や専門機関にご相談ください。



